高齢期の住まい選び、スムーズな家族会議のための事前準備と確認事項
親御様の高齢期の住まいについて、ご家族で考え始める時期を迎えている方もいらっしゃるでしょう。何から手をつけて良いか分からない、家族(兄弟)との具体的な話し合いが進んでいないといったお悩みをお持ちの方も少なくないかもしれません。
「わが家のカタチ相談室」では、ご家族皆様で高齢期の住まいについて考えるためのヒントや情報を提供しています。この記事では、親御様の住まいに関する家族会議をスムーズに進めるために、話し合いを始める前に確認しておきたい事前準備と、具体的な話し合いのポイントについて解説いたします。
家族会議を始める前に、まずは「現状」を共有する
家族で親御様の住まいについて話し合う際、最初の一歩として、まずは現状の認識を共有することが重要です。それぞれの家族が異なる情報や考えを持っていると、話し合いが円滑に進まないことがあります。
1. 親御様の現在の状況と意向を把握する
まずは親御様ご自身の現在の健康状態、日常生活の様子、そして将来の住まいに対する希望を把握することから始めましょう。 * 健康状態: 現在、医療的なケアは必要でしょうか。身体機能に不安な点はありますか。 * 生活状況: 日常生活で困っていることはありますか。買い物や家事、外出などに不自由を感じていますか。 * 住まいへの希望: 今の家に住み続けたいと考えているのか、住み替えを検討しているのか。もし住み替えるとしたら、どのような場所で、どのような暮らしを望んでいるのか。 * 経済状況: 貯蓄や年金、不動産といった資産状況について、可能な範囲で確認しておくことも大切です。
親御様が直接意思表示をすることが難しい場合でも、日々の会話や行動からヒントを得たり、かかりつけ医やケアマネージャーがいれば、専門家の意見を聞いたりすることも有効です。
2. 家族(兄弟)それぞれの状況と役割を把握する
次に、話し合いに参加するご家族(兄弟姉妹など)それぞれの現状と、親御様に対する関わり方を共有します。 * 物理的な距離: 親御様の住まいから、ご自身の住まいまでどのくらいの距離がありますか。 * 仕事や家庭の状況: 介護やサポートにどの程度時間を割くことが可能でしょうか。 * 経済的な状況: 経済的な支援が必要になった場合、どの程度協力が可能でしょうか。
これらの情報はデリケートな内容も含まれるため、一堂に会して話し合う前に、個別に状況を把握しておくことで、より建設的な話し合いにつなげることができます。
高齢期の住まいの選択肢を大まかに把握する
家族会議を進める上で、どのような選択肢があるのか、その全体像を事前に知っておくことは非常に重要です。専門的な知識は不要ですが、それぞれの住まいの特徴やメリット・デメリットを把握しておきましょう。
1. 自宅での暮らしを継続する
最も一般的な選択肢は、住み慣れた自宅で暮らし続けることです。 * 特徴: 長年暮らした場所で、地域コミュニティとの繋がりも維持しやすいというメリットがあります。 * 検討事項: 身体機能の変化に合わせて、バリアフリー改修や手すりの設置、段差解消などのリフォームが必要になる場合があります。介護サービスを導入しながら生活することも可能です。
2. 高齢者向けの住宅へ住み替える
自宅での生活に不安を感じるようになった場合、高齢者向けの住宅への住み替えを検討することができます。 * サービス付き高齢者向け住宅(サ高住): 安否確認や生活相談サービスが付帯した賃貸住宅です。食事提供や生活支援サービスを任意で利用できる施設もあります。自立した生活を送れる方が対象となることが多いですが、介護が必要な方向けのタイプもあります。 * 特徴: 比較的自由度の高い生活を送りながら、最低限のサポートを受けられる点がメリットです。 * 費用: 家賃、共益費、サービス費、食費など、月額で数十万円程度が目安となります。
3. 介護施設へ入居する
医療的ケアや手厚い介護が必要になった場合、介護施設への入居が選択肢となります。 * 特別養護老人ホーム(特養): 公的な介護保険施設で、原則として要介護3以上の方が対象です。費用が比較的安価ですが、入居待機者が多い傾向にあります。 * 有料老人ホーム: 民間が運営する施設で、サービス内容や費用は多岐にわたります。介護の必要度合いに応じて、自立型、介護付き、住宅型など様々なタイプがあります。 * 特徴: 専門スタッフによる24時間体制の介護や医療的ケアを受けられるため、安心感が高い点がメリットです。 * 費用: 入居一時金(数十万~数億円)と月額費用(数十万~)がかかることが一般的です。特養は比較的安価です。
これらの情報はあくまで概要であり、詳細については各自治体の地域包括支援センターや専門の相談窓口で相談することをお勧めします。
スムーズな家族会議のための具体的な「議題」とヒント
家族会議を始める準備が整ったら、具体的な話し合いに臨みます。感情的にならず、建設的に進めるためのポイントをご紹介します。
1. 話し合うべき「具体的な議題」の例
話し合いの場で何を決めたいのか、明確な議題を設定することが重要です。 * 親御様の意向確認: 再度、親御様自身の希望を尊重し、最優先で考慮する姿勢を共有します。 * 資金計画の検討: どのような選択肢を選ぶにしても費用がかかります。誰が、どれくらいの費用負担が可能か、正直に意見を出し合う場を設けましょう。 * 介護が必要になった場合の役割分担: 将来的に介護が必要になった場合、誰が、どのようなサポートをするのか、具体的な役割分担について話し合います。 * 緊急時の連絡体制: 万が一の事態に備え、誰が中心となって動くのか、連絡体制を事前に決めておくと安心です。 * 最終的な意思決定の時期: いつまでに、どのような形で結論を出すのか、目安となるスケジュールを設定することも有効です。
2. スムーズな話し合いのためのヒント
ご家族間での意見の相違は起こり得ることです。そのような場合に、話し合いを円滑に進めるためのアプローチをご紹介します。
- 感情的にならず、客観的な情報に基づいて話す: 感情論ではなく、具体的な情報(パンフレット、Webサイトの情報、専門家の意見など)を共有しながら話し合うことで、冷静な判断につながります。
- 全ての意見を聞き、尊重する姿勢を持つ: 兄弟姉妹それぞれの立場や考えを理解しようと努めましょう。すぐに合意に至らなくても、意見を聞く姿勢を示すことが大切です。
- 一度に全てを決めようとしない: 親御様の住まいに関する決定は、人生における大きな節目です。一度の会議で全てを決めようとせず、必要に応じて複数回に分けて話し合いましょう。
- 専門家への相談も検討する: 地域包括支援センターの担当者や、ケアマネージャー、ファイナンシャルプランナーなど、第三者の専門家を交えて話し合うことで、客観的な意見や専門的な知見を得ることができます。
事例に学ぶ、家族間の意見のすり合わせ方
具体的な固有名詞は避けますが、いくつかの一般的なケースをご紹介します。
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ケースA:親御様が明確な意思表示をしない場合 あるご家族では、親御様が「今のままで良い」としか言わず、具体的な検討が進まない状況でした。このご家族は、親御様の日々の生活を観察し、どのような点で不便を感じているか、何に喜びを感じているかを共有することから始めました。そして、選択肢をいくつか提示し、「もしこうなったらどうしたい?」と問いかける形で、少しずつ希望を引き出していきました。
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ケースB:兄弟間で意見が対立する場合 別のご家族では、自宅での改修を望む兄弟と、施設への入居を勧める兄弟で意見が分かれました。このケースでは、一旦、両方の選択肢についてメリット・デメリットを詳細に調べ、それぞれの費用概算も専門家から聞き取った上で、再度話し合いの場を持ちました。客観的な情報を共有したことで、感情的な対立が和らぎ、親御様の健康状態を考慮した上で、双方の意見を合わせた結論にたどり着くことができました。
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ケースC:費用負担で迷う場合 経済的な負担について話し合うのが難しいと感じるご家族も少なくありません。あるご家族は、まず「無理のない範囲で、各自がどの程度協力できるか」を正直に開示する場を設けました。その上で、親御様の資産状況も考慮し、足りない分をどのように補填するか、具体的に計画を立てていきました。無理のない範囲での協力体制を築くことが、長期的な関係維持に繋がります。
まとめ
親御様の高齢期の住まいについて、ご家族で話し合うことは、時にデリケートで難しい課題を伴うかもしれません。しかし、事前に情報を集め、話し合うべきことを整理し、ご家族で協力して準備を進めることで、よりスムーズに、そして親御様にとって最善の「わが家のカタチ」を見つけることができるはずです。
この記事が、皆様の家族会議を始めるきっかけとなり、具体的な一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。ご家族皆様で、親御様の未来についてじっくりと話し合う時間を持ってみてください。